5・経済の貧困+関係の貧困=現代の貧困


いまぼくたちが感じている生きづらさには、「経済の貧困」と「関係の貧困」が大きく影を落としている。
いまぼくたちが感じている生きづらさには、「経済の貧困」と「関係の貧困」が大きく影を落としている。最低限度の生活を維持できなくなる「経済的な貧困」の一方で、社会にあった「きずな」「共同体」が変容・崩壊し、自分の「居場所がない」「安心して居られない」場になっているため、そこでは「生きられない」人々が無数にいる。家庭を居場所にできない「虐待」、そして、従来の学校を居場所にできない「不登校」、会社などを労働の場にできない「ひきこもり」…。
                          




領域「」は、「経済の貧困」だが「関係の貧困」ではない状態である。
具体的には、テレビ番組「銭形金太郎」で出てきていた「ビンボーさん」があてはまる。あの人たちの多くは、極貧生活の中でも、周囲の人たちと助け合いながら、楽しく暮らしていた。
もう一つの例は、「野宿者のテント村」である。公園のテント村では、誰かが病気でしんどくなるとまわりの野宿者仲間が食事を持っていったり救急車を呼びに行ったりすることがある。また、生活に困って「テント村」に迷い込んだ人がいると、お金のない野宿者が一〇〇〇円ほどのお金を貸したり、寝場所を作ってあげたりするのを見かける。その親切さには驚くばかりだが、一つには、否応なく近所で顔を合わせて生活する「村」では、そうした人間関係が自然にできているからだ。(一方で、テント村の暮らしは場所によって様々で、すぐ横のテントの人と「話したこともないし顔もよく知らない」という都会のマンションみたいな話もよくあるが)。


領域「」は、逆に「経済の貧困」ではないが「関係の貧困」の状態である。

例えば、野宿からアパートに入った人で、「一日誰とも話さない。ずっと部屋でテレビを見て暮らしている」という人はかなり多い。生活保護でアパートに入った途端に、アルミ缶集めなどの生活の「はり」や人との「つながり」がなくなり、アルコール依存に陥ったり急に病気になって入院したりというパターンが非常に多いのだ。そうなると、野宿しているのとアパートに入るのとどちらがいいのかと疑問に思う時がある。つまり、「」から「」に(「経済の貧困」から「関係の貧困」に)移っただけではないか、ということである。


「経済の貧困」
の極限のケースとして「経済のホームレス」(安定して住める空間がない状態)がある。

一方、「関係の貧困」「関係のホームレス」と呼ぶことができるだろう。つまり、関係の上で「安定して居ることのできる空間がない状態」である。
家庭で安心して暮らすことのできない「虐待」、学校が居場所にならない「不登校」、従来の会社などを労働の場にすることのできない「ひきこもり」(もちろん、ひきこもりの要因をこれだけで考えることはできない)がここに相当する。
例えば、野宿者襲撃の多くは、「関係のホームレス」である少年たちが「経済のホームレス」である野宿者を襲う、という関係として考えることができる(『〈野宿者襲撃〉論』)。



そして、「経済の貧困」「関係の貧困」は相互に関連する。

例えば、虐待の背景に「経済的貧困」の問題が指摘されることがしばしばある。また、虐待が代表であるように「家族をあてにすることのできない」若者が、経済的貧困に陥りやすいことは当然と言える。


領域「」は「経済の貧困」「関係の貧困」が重なった状態である。それは、われわれが直面しつつある「現代の貧困」の典型となっている。
現在の貧困問題は、「経済の貧困」「関係の貧困」が共に広がり、その二つが重なり合う「現代の貧困」が拡大しつつあるということにある。

なお、ここでは「現代の貧困」「経済の貧困」「関係の貧困」の論理和(「または」)と考える。
すなわち、「現代の貧困」
狭い意味での(典型としての)「現代の貧困」として、「経済の貧困」「関係の貧困」の論理積(「かつ」)と考える。
その場合、「現代の貧困」B。


域「」は、「経済と関係の豊かさ」を意味している。
「オルタナティヴな学校・企業・家族・地域社会」は、それを目指しているはずだ。だが、「オルタナティヴな学校・企業・家族・地域社会」はどうしても「ビンボー」になりがちで、その多くは領域「」を目指しながらも領域「」にとどまっている。


野宿者にも障がい者にもひきこもりにもシングルマザーにも「自立支援」という言葉が「これでもか」というぐらい言われる。
しかし自立とは、経済的「自立」と同時に、人と人との関係の中で「自分のことを自分で決定する」という関係的「自立」を意味しているはずだ。
「経済の貧困」
「関係の貧困」に対抗するネットワークが必要とされている。自分と他者の尊厳をともに尊重し、生活の多様性を実現していくネットワークが。