道徳の時間における    
   「野宿者人権学習」指導案 〔中学校編〕
 中江淳子


 
1.主題名  差別や偏見のない社会の実現  項目4−(4) 
        関連項目  生命の尊重3−(2)  人間の心の弱さの克服3−(3)
 
2.ねらい  差別や偏見のない、よりよい社会の実現を目指す
 
3.主題設定の理由
(1)指導内容について
    生徒がその無知と偏見から、野宿者に対していたずらや襲撃をしてしまう現実は、生徒たちの教育に携わる私たちにとっては憂うべき出来事である。しかし、生徒の無知や偏見が野宿者に対するいたずらや襲撃の要因のひとつであるならば、野宿生活者を「知る」ことによって、いたずらや襲撃のいくらかは防げる可能性がある。学校で野宿者人権学習に取り組む意義は、ここにあると考える。             
    今回は、襲撃によって奪われた生命が、どんな生命だったのかを考えることを通して、野宿者も自分たちと同じかけがえのない生命をもつ‘ひとりの人間’であるということに気づかせることに重点をおきたい。また、生命の重みを感じるだけでなく、「知らない」ことが自らの中に差別や偏見をつくりだしてきたことに気づき、日々の生活の中で自分と野宿者がともに生きていける社会のために「自分には何ができるか」を考えるきっかけとしたい。
 
(2)生徒について
    全国の野宿生活者の約1/3が生活する大阪市では、生徒にとって野宿者の存在は日常のものである。その存在が日常的なものであるにも関わらず、生徒たちは野宿せざるを得ない人たちのことを何も知らない。その無知から生まれる差別や偏見が、若者による野宿者へのいたずらや襲撃の要因にもなっている。現実に大阪市では、若者による野宿者への殺人を含む襲撃やいたずらが長年にわたって頻発している。襲撃により被害者である野宿生活者が、心身共に大きな傷を負うことは言うまでもない。そして、襲撃の加害者である少年たちもまた生々しい傷を心に持ち続けることになる。襲撃は、双方にとって不幸な出来事なのである。
   様々な生き方が是認される現代社会において、人が本心で願うことは、互いに相手を尊重し合う理想的な社会の実現である。野宿者人権学習においては、生徒が野宿者の本当の姿や思いを知ることを通して、自らの心の内にある偏見・差別を理解・共感に転換し、よりよい社会を実現するために「自分には何ができるか」を生徒が考えるきっかけとしたい。                                    
(3)資料について
    実際に起こったホームレス襲撃事件を扱った本の一部を再構成したものである。
飼い主のいない犬ラン、ガード下に住むホームレスの「おじちゃん」、このふたりを温かく見守っている食品店で働く「おばちゃん」。ランとおじちゃんとおばちゃん。この3人の心の交流を通して、ホームレスもひとりの温かな心をもった人間であることを感じることができる資料である。また、このおじちゃんを襲撃し死に至らしめた少年を描いた場面から、ホームレス襲撃が残虐で非人間的な行為であることを訴えかけてくる資料でもある。
資料を通して、ホームレスも自分たちと同じかけがいのない生命をもった‘ひと’であること。そして、社会のホームレスへの差別や偏見が、襲撃の大きな要因になっていること。さらに、生徒自身の心の中にも、同じような思いこみがあることに気づかせたい。
 
4.資料解説
(1)出典 「ガード下の犬ラン」 ハート出版 (一部抜粋)
(2)筆者  関 朝之
(3)項目の視点 
    この資料では、ガード下で野宿生活を送っている小茂出清太郎さんの人柄を読み取ることができるように、深く深く読むことが大切である。その人柄を深く読むことを通して、野宿者も自分たちと同じかけがえのない生命をもつひとりの人間であるということに気づくことが大切である。また、その生命が若者による野宿者襲撃という最悪なかたちで奪われた事件を通して、生命の重みを感じるだけでなく、このような事件がおこらないような社会の実現を目指した指導に重点をおきたい。 
 
5.授業展開
















































 

 

学 習 活 動

発 問 と 予 想 さ れ る 生 徒 の 反 応

    留 意 点







 入


 

ホームレスについて思っていることを発表する
 
本時のねらいに関心をもつ



 

「ホームレス」はどんな人だと思いますか。
 怖い・汚い・怠け者・探せば仕事はある
  好きでやってる・自業自得・負け組・
  失業者・わがまま・自分勝手…etc

「ホームレス」って本当はどんな人なんだろうね。先生も今回勉強するまで何も知らなくてみなさんと同じように思っていました。きょうは、ホームレスだった小茂出さんというおじさんのことを書いた本を、みんな一緒に読んで考えたいと思います。

事前に無記名でアンケートをとっておく
  (アンケートは別紙)


生徒の発言を否定せず、自分も同じように思っていたことを正直に言う

 












 開

















 

資料を読む
  (25分)

資料を提示し、教師が範読する
 

学習課題を把握できるように範読する

1おじちゃん がどんな人 かを中心に 話し合う
 

ランやおばちゃんとの関わりから、おじちゃんはどんな人だと感じますか。
  ひとりで寂しい 優しい 犬が好き 
  ひとの辛さが分かる 勇気がある
  親切

おじちゃんの人柄が分かる具体的な場面で発表するように促す

 

2なぜ、若者 がおじちゃ んを襲撃し たのか話し 合う



 

何故、若者たちはおじさんを襲撃したのでしょうか。
  ゴミ ゴミを掃除する アタマ変
   ゴミ掃除は社会に対していいこと

何故、若者はホームレスの人たちをそんなふうに見ているのでしょうか。
  きたなそう 道路や公園で寝ている
   何もしていない 役立たず

まず、具体的なセリフから分かる部分を発表させ、次に生徒が想像出来る心情部分を引き出せようにする



 

3若者たちが 襲撃によっ て奪った命
 が、どんな 命だったを 考える





 

おじちゃんを知っている人たちにとって、おじちゃんの死はどんな死でしたか。
  とても悲しんだ
   多くの人が追悼集会に参加した

何故、おじちゃんを知っている人にとっては、悲しい出来事だったのでしょうか。
   おじちゃんことを知っていたから

若者が「ホームレス」の人をゴミと思っているのは、知らないからなんじゃないかな。
それは、私たちも同じかも知れないね。

「ホームレス」とういうのは人の状態をを示す言葉で、その人を指
す言葉ではないこと。「ホームレス」と一括りするのではなく、ひとりひとりが個性のある‘人’なのだということに気づかせる


 


 
感想を書く

 


 


 
 
*この読み物をきっかけに、学活の時間などを利用して、野宿生活者の生活や願い、また野宿せざるを得ない社会のしくみ、景気の調整弁として使われてきた日雇い労働者の存在など学習することが望ましい。
 できれば、指導する教員自身が野宿者に対する自分の内なる偏見に気付くためにも、俗にホームレスと呼ばれる人と触れあい、そこで感じた野宿者の「ひと」としての姿や思いを生徒に伝えられることが望ましい。
 また、野宿支援者による生徒たちへの授業も有効な学習だと考える。


別紙アンケート
大阪で暮らしているみなさんは、日頃からさまざまな場面で、「ホームレス」と呼ばれる人たちを見かけることがあると思います。そこできょうは、みなさんがその「ホームレス」と呼ばれる人ををどんなふに思っているか。日頃、感じていることを聞かせて欲しいと思います。
 
1.公園や路上で、野宿生活をしている人をどう思いますか。
 
 
 
 
 
 
2.なぜ、野宿していると思いますか。
 
 
 
 
 
 
3.野宿している人と関わりを持ったことはありますか。
  ある人はどんな時ですか。具体的に書いてください。
 
 
 
 
 
 
4.中高生や若者による、野宿生活者への嫌がらせや襲撃が後を絶ちません。
  野宿生活者に対する嫌がらせや襲撃をあなたはどう思いますか。
 
 
 
 
 
 
5.その他、野宿生活者について思っていること・知っていることなど、書いてください。


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