チェンバロ・オルガン曲
Music for cembalo and organ

Hauptwerkというチェンバロ・オルガン音源を扱うフリーソフトを2012年11月に見つけ、ダウンロードして、使い方をいろいろ試してきた(アプリケーションだけで、ADSLでダウンロードに8時間! 音源もそれぞれ数時間かかる)。ただ、フリーバージョンだとオルガンにいくつか制限がかかるので、後で、有償のベーシックバージョンを買った。
いずれも、実際のチェンバロ・オルガンから一音一音録音したものを、電子ピアノでMIDI入力して鳴らす。ピタゴラスやミーントーン、キルンベルガーVなどの古典調律も可能で、さらにMIDI入力のキーボードが2つあれば二段鍵盤も使える。
それにしても、チェンバロを習ってきた人間としても、この音源のリアリティには驚く。チェンバロを録音したものと、このソフトで再生録音したものを区別することはかなり難しい(区別のポイントは、弦の共鳴による複雑な響きだろう。これは、ピアノ音源のIvory IIでは、Symphonic Resonanceというシステムで再現しようとしている)。
コンピュータチェスやコンピュータ将棋が人間を追い越していくのと同様、ソフト音源が生楽器の音響の間近に来ている。

♪・Canzon Francese del Principe 6:19 (2013.5rec)
Gesualdo
ジェズアルド(1566? - 1613)は不倫を疑って妻子を殺害し、後半生は鬱に苦しんだ「殺人貴族」作曲家で、特に不協和音を多用した前衛的マドリガルが有名だ。だが、マドリガルより、比較的伝統的な書法で書かれた宗教曲、特に「聖母マリアのモテト」が素晴らしく、すべての音楽の中でぼくが一番好きな曲の一つになっている。
この曲「主君のフランス風カンツォーナ」はジェズアルド唯一の器楽曲だが、この時期(ルネッサンス後期)の作曲家は主力を声楽曲に注いでおり、これほど音楽的に内容のある器楽曲は他にほぼ存在しない。通模倣様式により、様々な声部が同一旋律で次々と入り、それぞれ別の形へと散りながら音楽が進行していく。そして、その流れは半音階音型によって何度も突然中断させられる。そのエモーショナルな迸りにおいて、この曲は音楽史を300年近く飛び越えている。
この曲は、ハープないしはリュートで「かき鳴らす」ように弾くのがいいのだろう。ここでは、チェンバロ音源のリュートストップを使った。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・Rain Dreaming(夢見る雨 6:11 (2013.8rec) 
Toru Takemitsu
武満徹の唯一のチェンバロ曲(1986年。ホイナツカに献呈)。同一の音型を繰り返す中、右手が一拍ずつズラされていく。ミニマリズムを思わせる音の流れが雨のように続く。そこでは、チェンバロの不協和音が(バルトークの場合のように「刺さらず」)、柔らかく官能的に響いている。
なお、6ページ2段目の右手は鍵盤Uの指示だが、ここではTにした(この方がいいと思います)。また、和音の「ad lib.」の一部は打鍵を増やした。
チェンバロ音源の二段鍵盤を、それぞれMIDIで繋いだ電子ピアノと61鍵のキーボードで使い分けている(キーボードは膝上に置いている)。数カ所編集。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・メープル・リーフ・ラグ 3:15 (2013.5rec)
Joplin, Maple leaf Rag
スコット・ジョプリンの最もよく知られたラグタイム。サティとジョプリンはテレビで最も使われる(クラシックの)作曲家だろう。チェンバロでラグタイムを弾き始めたのは、ホイナツカのCDを偶然見つけて、それがあまりに「はまって」いたから。それから、通っていたチェンバロのレッスンでいくつかジョプリンのラグタイムを弾いた。この歯切れのよさは、ピアノをどう扱っても絶対出ません。数カ所を編集。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・パイナップル・ラグ 3:42 (2013.3rec)
Joplin, Pine Apple rag
これもスコット・ジョプリンの(CMなどで)よく知られた、誰でも知ってるラグタイム。数カ所を編集。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・142 蠅の日記から 1:30 (2013.4rec)
バルトークの「ミクロコスモス」第6巻から。チェンバロ音源の二段鍵盤を、それぞれMIDIで繋いだ電子ピアノと61鍵のキーボードで使い分けている(キーボードは膝上に置いている)。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・ブルガリアのリズムによる6つの舞曲2 1:07 (2013.1rec)
Bartok, Six Dances in Bulgarian Rhythm 2
バルトークの「ミクロコスモス」第6巻から。2+2+3のリズム。同音連打が冴えてる。中間の盛り上がりがすごくいい。
チェンバロ音源の二段鍵盤を、それぞれMIDIで繋いだ電子ピアノと61鍵のキーボードで使い分けている(キーボードは膝上に置いている)。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・ゴルトベルク変奏曲・アリア 3:03 (2013.1rec)
Bach, Goldberg Variation Aria
ゴルトベルクの場合、「繰り返し」をどうするかが一つの問題だ。同じことを繰り返すチェンバリスト、ピアニストが多いが、「それぐらいなら、繰り返さない方がいいんじゃない?」と思う。ここではアイデアを試した。チェンバロ音源の二段鍵盤を使用。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・平均律クラヴィーア曲集第1巻・第1曲プレリュード・ハ長調 2:05 (2013.1rec)
Well-Tempered Clavier Book 1 No.1 in C-flat Major Prelude by chembalo
チェンバロ音源のサンプルとして、まずこの曲。

♪・平均律クラヴィーア曲集第1巻・第7曲プレリュード・変ホ長調 4:04 (2013.1rec)
Well-Tempered Clavier Book 1 No.7 in E-flat Major Prelude by chembalo
バッハの平均律は、名前の通り、クラヴィーアのために書かれている。これは鍵盤楽器の総称だ(のちの19世紀では、クラヴィーアと言えばピアノのこと)。バッハの場合、クラヴィコードやチェンバロを想定したと考えられる。
実際、この曲集は一つの楽器で弾くのなら、チェンバロで弾くのが最も効果的だと思う(個人的には、この曲集をピアノで弾くのは音響的に無理を感じる)。
それでも、チェンバロで平均律を聞いていると、「これはオルガンで弾いた方がいいんじゃないか」「これだったらピアノでも成立するかも」と思う曲がある。
事実、野平一平がピアノやクラヴィコード、コンピュータ処理などを使って弾き分けたアルバムがあるし、ロバート・レヴィンはチェンバロ、オルガン、クラヴィコード、ピアノフォルテを使い分けて弾いている。実際、その方が、チェンバロだけで聞くより音色の変化があって聞きやすい。
「この曲はオルガンがいいのでは」とまず思ったのがこの曲だ。まずはチェンバロ音源で弾いた(なお、冒頭の和音は楽譜にはありません)。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・平均律クラヴィーア曲集第1巻・第7曲プレリュード・変ホ長調 4:09 (2012.12rec)
Well-Tempered Clavier Book 1 No.7 in E-flat Major Prelude by organ
同じ曲をオルガン音源で弾く。こっちが合ってると思うけど。音源Hauptwerk-St. Anne's Moseley Organ(リンク先はPDFファイル)

♪・平均律クラヴィーア曲集第1巻・第4曲フーガ・嬰ハ短調 4:15 (2013.1rec)
Well-Tempered Clavier Book 1 No.4 in C sharp minor Fugue by chembalo
これも「この曲はオルガンの方がいい」と思った曲。まずチェンバロ音源。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・平均律クラヴィーア曲集第1巻・第4曲フーガ・嬰ハ短調 4:22 (2013.1rec)
Well-Tempered Clavier Book 1 No.4 in C sharp minor Fugue by organ
同じ曲をオルガン音源で弾く。こっちが合ってると思う。音源Hauptwerk-St. Anne's Moseley Organ

3声のリチェルカーレ(音楽の捧げ物) 5:11 (2013.10rec)
Bach, Ricercar a 3 (Musikalisches Opfer)
バッハ晩年の「音楽の捧げ物」の、フリードリヒ大王のテーマによる3声のフーガ。バッハが即興演奏したものに近いと言われてる曲。
下の6声が「悠然」だとしたら、こちらは「快速」(allegro)のイメージ。
半音階を徹底的に駆使した曲で、たとえば104小節2拍目からの2小節で12音が揃う。

これについてはこちらを参照。12音音階の成立以降、「12音をすべて使うこと」は作曲家にとって一つの理想(夢想)かもしれない。数カ所編集。音源Hauptwerk-Cembalo Mietke

♪・6声のリチェルカーレ(音楽の捧げ物) 8:22 (2013.2rec)
Bach, Ricercar a 6 (Musikalisches Opfer)
バッハ晩年の「音楽の捧げ物」の、フリードリヒ大王のテーマによる6声のフーガ。「2本の手だけで6声のフーガを弾けるか」という大王の問いに応じて作られた。バッハはよく音楽史上最も「よく書ける」(作曲技法に優れた)作曲家と言われるが、これはその一つの典型か。
ポリフォニーの精巧さと同時に、音楽的な内容の複雑さと巨大さという点でこの曲は比較を絶している。なお、あらゆる音楽の中で、ぼくが弾いて最も興奮させられるのがこの曲です。
最初、オルガン音源で弾くといいのではないかと録音して較べてみたが、「やっぱりこの曲はチェンバロ曲だ」と納得。なので、チェンパロ音源Hauptwerk-Cembalo Mietkeのみアップ。数カ所編集。

☆ミサの聖体拝領の音楽
Music for Holy Communion
以前、シスターに頼まれて、キリスト者ではないけど、本田哲郎神父のミサでオルガン奏者をやっていた。釜ヶ崎にある修道会の(相当昔の)キーボードで、聖体拝領のときなどに曲を弾いた。
最初は普通に「いつくしみふかき」を弾いていたが、「他に何か合うのがないかな」と思って捜して、実際に弾いていたもの。他にも弾いていたが、よく弾いたこの3曲を(なぜか、どれもプロテスタント系の音楽…)。

♪・平均律クラヴィーア曲集第1巻・第7曲プレリュード・変ホ長調より10〜24小節 2:41(2012.12rec)
Well-Tempered Clavier Book 1 No.7 in E-flat Major Prelude 10-24bar
上の平均律の曲の一部。オルガンの音を変えてゆっくり弾くと、あら不思議、瞑想的なコラールになる。音源Hauptwerk-St. Anne's Moseley Organ

♪・A.F.ヘッセ Andantino 2:10 (2012.12rec)
Hesse
西成教会(日本基督教団)でオルガンを弾いていた知り合いからもらった楽譜コピーにあった曲。本来もっと早い曲だろうが、ゆっくり弾くとこんな感じ。
音源Hauptwerk-St. Anne's Moseley Organ

♪・A.F.ヘッセ Andante 2:39 (2012.12rec)
Hesse
上同。より愁いにあふれた曲。
音源Hauptwerk-St. Anne's Moseley Organ

★電子ピアノと音源ソフトによる編集なしの一発取り
音声ソフト「Audacity」で残響を加えた
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