特別清掃の一年
生田武志             
初出「協友会通信」47(2000年11月20日発行)


 5年前から大阪市が財源・自彊館が事業主の形で続いてきた、55歳以上の労働者を対象にした特別清掃事業は、1999年度11月から、それまでの一日2〜30人から一気に133人へと拡大しました。国のホームレス対策の緊急地域雇用創出基金交付金を資金にし、事業主にはNPO釜ヶ崎(釜ヶ崎支援機構)がなることで、この拡大が可能になりました。
 仕事の内訳は、釜ヶ崎地区内の道路清掃に60人、草刈りに10人、公園、保育所(遊具、プールなどのぺンキぬりなど)、バス停清掃に60人。この体制が2年半の予定で続きます。
 この結果、99年度に登録していた1966人の労働者は、それまでの月2回就労のぺ一スが月3回に変わりました。もちろん、登録している皆さんは大歓迎です。そして年度末には登録労働者を対象にしてアンケート調査をしました。
その結果を見てみると
▼平均年齢62.5歳 月平均就労2.7回
▼どのようなことで収入を得ていますか?
 アルミ缶集め329名 段ボール集め64名 土工121名 現金仕事88名 片づけ 40名 ガードマン35名 など。
▼今の月平均収入は 29,520円
▼最近どこで寝ていますか?
 野宿43、2% 大テント(反失連が野宿者用に運営している)21.6% 野宿とドヤ(簡易宿泊所)13.4% ドヤ10.7% アパート9.4% その他1.6%
▼11月から就労回数が増えて、生活は変わりましたか?
 変わった15.3% 少し変わった54.5% 変わらない30.2%
▼変わったのはどこでしょうか?
・食が少し変わった・いやな拾い食いをしないでよくなった ・たまには食堂で食べています・入浴と弁当が買えるようになった・月に5回くらいドヤに泊まれるようになった 気持ちの面で少し楽になったように思う 少し多く食べられてうれしい
 そして「生活は変わらない」と答えた人は、就労数が少なすぎて野宿は変わらないから、という理由が大多数でした。
 こうして見ると、登録労働者のほとんどが野宿状態にあって、一日5,700円の特別清掃を最大の収入源として頼りにしていることがわかります。(もっとも2000年度には登者が2815人へと激増し、輪番は再び月2回程度になってしまいました。釜ヶ崎労働者の今の平均年齢からすれば、毎年55歳以上の人は1000人以上は増えていくはずだから、特掃の規模はそれにとうてい追いつきません。)
 1999年度から新たに始まった事業のうち例えば保育所の環境整美作業は、今まで市の予算がなかなかつかずにあちこちボロボロのままだった保育所が多いため、保母さん保父さん、園児から大変好評で喜ばれています。休み時間にお菓子やお茶の差し入れも度々あり、保育所からの感謝状をいただくこともありで、今までなかった交流が始まっています。
 反失連の行動によってかちとられ、発足した特別清掃事業は、アンケートからもわかる通り、依然、野宿から労働者が脱する程の規模には達していません。むしろ、かつてのような仕事のある時代が来るとも思えず、再就職するあてもあるとは言えない高齢の野宿労働者にとっての収入面の最後の拠りどころ、これで何とか一時的にも人間らしいこと(風呂・食事・衣類)ができるもの、という意味あいが固定しつつあるように思えます。
 この間も仕事をしていると、清掃中の労働者の知りあいが「○○さんは体を悪くして、前一緒にやってたとびの手元ができなくなってな、ま、みんなで飲んでや」と言って、お茶のペットボトルを人数分くれました。昔から労働者どうし、仕事にあたらなかった時などには千円二千円をわたして助けあっていました。しかし今はもう労働者だけではどうしようもないところに来ています。特掃が野宿労働者にとって最大の生活の要の一つであって、その拡大はこれからも絶対必要なことには変わりありません。しかしそれと同時に釜ヶ崎の外の人たちからの関心と、支援、連帯とが不可欠なのだと思います。

ビルの谷間に男性の白骨遺体(2000.8.20 スポーツ報知)
   大阪・心斎橋

 18日午前9時15分ごろ、大阪市中央区博労町のビルとビルの間に、白骨化した遺体があるのを清掃作業中の男性が発見、110番した。
 東署の調べでは、遺体は通りから約30b入ったビルとビルの間(幅約80a)で見つかった。あおむけで段ボールが3枚ほどかぶせられ、死後数か月から1年が経過しているとみられ、外傷はないという。
 近くにあった段ボールの中に、着替えなどの生活用品や西成労働センター清掃紹介整理票が残されており、住所、職業不詳の三好徹二郎さん(71)とみて身元の確認を急いでいる。
 現場は地下鉄御堂筋線心斎橋駅の北東約500bのオフィス街。

※文中の西成労働センター清掃紹介整理票とは特別清掃の登録者に配られるカードのこと。おそらくは 何度か一緒に仕事をしただろう三好さんの今まで誰にも知られることのなかった死を悼みます。

                       


参考資料・2001年10月2日 朝日新聞

雇用特別交付金期限切れへ
大阪の影響深刻

全国最多の8千人以上とされる大阪の野宿者が頼りにする大阪市と大阪府による清掃などの就労仕事が、大幅に縮小となる危機に直面している。
自立を支援するために続けてきたが、主な財源になっていた国の「緊急地域雇用特別交付金」が今年度末で切れる。関係者は交付金の延長を強く求めている。
 9月中旬、日雇い労働者や野宿者が多く住む大阪市西成区の街路。7、8人の男性が金ばさみとちりとりを手にして、歩道のたばこの吸い殻や紙くず、落ち葉などを黙々と拾い集めた。大阪市が発注した就労事業だ。午前10時から午後4時の6時間で、日当は5700円。
 西成区の公園や路上で野宿している男性(58)は、この仕事に収入の大半を頼る。
 「作業は月に1、2回しか回ってこないが、現金収入になるからありがたい。この仕事がないと、どうやって暮らしていけばいいのか」と話す。
 市は国からの特別交付金のうち7億4千万円を使って、街路掃除や市有地の草刈り、遊具施設の補修、ペンキ塗りなどの就労事業を続けてきた。
 就労事業はNPO(非営利組織)法人「釜ヶ崎支援機構」に委託している。55歳以上の約3300人が登録している。府も交付金のうち8500万円を使って委託し、去年12月からの4ヵ月間で138人を雇った。
 同機構は6月、市と府に交付金事業の延長を要望した。松繁逸夫事務局長は「何も食べずに3日間、JR大阪駅で野宿した後、就労事業に就くため、西成まで歩いてきて倒れた人がいた。この仕事に頼らざるを得ない人は多い」と訴える。
 来年4月以降、大阪市は市単独規模に事業を縮小しなくてはならない。府は事業継続について未定だ。大阪市保護課は「のどから手が出るほど国の予算がほしい」と継続を国に求める。

強まる就労の必要性 島和博・大阪市大助教授(社会学)の話 
野宿者は今日、明日をどうやって生きるかという状況にある。緊急地域雇用特別交付金が創設された当時と比べて、抜本的な対策が取られたわけではない。現状はむしろ悪化し、就労事業の必要性は強まっている。行政はそのことを理解すべきだ。

緊急地域雇用特別交付金

政府が01年8月〜02年3月までの事業に限定し、全国の自治体やNPOに事業を委託し、30万人の雇用創出を目指す。大阪府には145億1900万円が交付され、府に73億8500万円、残りは府下市町村に配分され、00年度で計391事業が実施された。府内で新規雇用3万人を目標にしている。

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