第11回 西成特区構想有識者座談会  生田武志

 9月3日、「環境問題、衛生問題、治安問題への対策について」という内容で西成特区構想有識者座談会が行なわれ、西成公園の問題についてゲストスピーカーとして呼ばれて、参加してきました。
 西成特区構想は6月から始まり、教育、雇用など様々な論点が話し合われてきています。
 今回はその11回目。治安問題については、鈴木亘氏から、西成区の犯罪率は必ずしも高くないということ、事実、2009〜11年度の全刑法犯件数は大阪市で西成区は6位。今年度8位で、西成より順位の高いのは、中央区、北区、浪速区、天王寺区、西区という結果が示されました。街頭犯罪件数では、西成区は2009年度が9位、2010年度が7位、2011年度が8位、今年度10位。「ひったくり」についても阿倍野区や浪速区の方が多いという結果が出ています。要するに、西成区がトップの犯罪はなく、「西成区は危ない所」というよく言われる言葉は事実無根の偏見と言えます。
 犯罪については警察との関係を無視できませんが、ありむらさんからは「谷川俊太郎を招いたイベントを計画したおり、釜ヶ崎の中での企画を警察で提示したが、『群衆が蝟集する事態は困る』ということで却下されたが、そうした姿勢がむしろ建設的な街づくりに反しているのではないか」という意見がありました。ぼくからは、1970年代初頭から設置された監視カメラの一つは労働組合事務所を終日監視し続けたために裁判で撤去を命じられたという経緯と、夏まつりや越冬の際、多数の機動隊員が街中に配置されているが、それは全く意味がないのでそのエネルギーはもっと別のところで使った方がいい、ということを発言しました。町会の方からも、防犯カメラや不法投棄について、西成署がもっと効果的な対策をできるはずだ、という意見がありました。
 西成公園問題については、西成公園よろず相談所の長瀬さんとも情報交換して、話すべき内容を考えました。割り当てられた約20分の間に、西成公園で釜ヶ崎の労働者が失業してテントが増えていった経緯、繰り返し起こった公園内整備工事とそれに伴う話し合いとテントの移動、毎年のように起こっている襲撃について報告しました。そして、ここ数年で生活保護で公園からアパートに入っていった人が何人もいましたが、そのうちよろず相談所による人が最も多く、それから炊き出しに来ているキリスト教団体、そして行政によるものであることを報告しました。
 公園のテント問題については、鈴木亘氏の提出資料にあるように、「西成区内のテント・小屋掛けをどう平和的に解決してゆくか」という発想があります。これについては、
「野宿の問題の中で、特に公園の野宿者だけを取り上げることにあまり意味を感じませんし、野宿している人たちに対して『平和的に畳の上に移っていただく』ことを優先して考えたことはありません。信頼関係を作ることを第一に、例えば病院に行きたいという希望があれば病院へ同行し、役所との人と交渉したいという希望があれば同行し、といった活動をしています。その中で、例えばアパートで暮らしたい、実家に帰りたい、という希望があれば、その希望に添うように動いてみる、というのが支援者のスタンスです。「脱野宿」だけを念頭に置いて関わる限り、信頼関係を作ること自体が不可能となるからです」ということを話し、公園のテント村の中では日常的な助け合いも成立していて、ケースによっては生活保護でアパートに入ると孤立してしまう可能性が高く、望ましいと言えないこともある。その意味では、解決すべきは「野宿」ではなく、経済的なものと社会関係的なものの2つの「貧困」である、強制的な排除は必要ではなく、一人一人の問題をていねいに解決すべきだ、ということを話しました。
 他の委員からは、過去、大阪市では繰り返し行政代執行など強制排除が行なわれた「負の歴史」があったが、むしろ話し合いによって個別の解決をしなければならない、という意見がありました。一方、萩ノ茶屋町会の方からは「やはり、公園の遊具などが使えない今の状態がいいとは思えない。なんとか解決していただきたい」という声がありました。
 公園のテント問題は、地域の方との摩擦もあり難しい面があります。しかし、座談会で、過去の強引な過ちは繰り返すべきではないという流れが主流で、それはよかったのではないかと感じています。

 以下、今回の参加者
鈴木亘学習院大学経済学部教授 水内 俊雄大阪市立大学都市研究プラザ教授
ありむら 潜釜ヶ崎のまち再生フォーラム事務局長
織田 隆之釜ヶ崎のまち再生フォーラム代表理事
原 昌平医療福祉ジャーナリスト
生田 武志ゲストスピーカー(野宿者ネットワーク代表)
荘保 共子ゲストスピーカー(カトリック大阪大司教区 こどもの里施設長)
西口 宗宏オブザーバー(ウェルフェアマンション’おはな代表)
田中 康夫オブザーバー(萩之茶屋社会福祉協議会会長)
角田 昇オブザーバー(萩之茶屋連合振興町会会長)


戻る