2001年6月17日野宿者ネットワーク第4回総会

         活動方針

    野宿労働者をとりまく現状

(1)国政問題へと押し上げられた「野宿労働者問題」

 大阪1万5千・東京1万……全国で3万人を上回ると想定される野宿を余儀なくされた労働者が、今、この国には存在している。
 野宿労働者自らの起ち上がりと支援運動の取り組みの中で、「野宿労働者問題」は、確実に国政課題へと浮上した。この1年、野宿労働者をめぐる国一各自治体による「施策」は、大きな転換を遂げている。その「施策」の「評価」は、各運動体によって様々に異なる。だが、野宿労働者間題への対策状況は、紛れもなく、これまでとは違う段階へと到達している。
 端的に言えば、「対策なき排除」に異議を申し立て対策を要求する段階から、具体的な対策を行政へ要求し実施させる段階への転換といえよう。
 野宿者ネットワークはこれまで、微力ながらも、行政などによる「対策なき排除」には現場の野宿労働者と共にたたかいながら、粘り強く「野宿しなくてもよい」施策の早期実施を訴えてきた。まがりなりにも、大阪市が「対策」に乗り出した以上、この「対策」が真に野宿労働者の利益につながっていくものとなることを、今後も現場の視点から考え訴えていく。
 大阪では、昨年(2000年)の釜ヶ崎三角公園脇の「夜間緊急避難所」建設、そして長居公園での「仮設一時避難所」建設と続くシェルターの設置、さらに市内3ヵ所の「自立支援センター」開設という動きとなった。長居公園をめぐる一連の動向から「自立支援センター」の実情、そして野宿者ネットワークが取り組んできた西成公園での「仮設一時避難所」建設の着工の動きなどについては、別項にて提起するが、野宿者ネットワークの基本姿勢は、野宿労働者一人一人の希望に応じた多種多様な選択肢を行政に用意させ、就労一住居一生活保障を貫く総合的な対策に着手させていくことである。同時に、現状では不備な「対策」を労働者に対し一方的に強制することのないようにさせ、また「対策」を受けた後もなお野宿状態を余儀なくされる労働者の支援を続けていく。
 「野宿しなくてもよい」対策を求め、同時に、野宿労働者が野宿を余儀なくされながらも苦闘しつつ築き上げてきた生活や労働そして共同性を尊重し、中途半端な「対策」が野宿労働者に不利益をもたらすことがあってはならない(「現状よりも不利にならない」)という観点を貫く支援運動を続けていく。
 野宿者ネットワークでは、小さな一歩ながらも、西成公園や関谷町公園などこれまでかかわりもってきた公園や路上での闘いからこれを今後も目指していきたい。
 また釜ヶ崎反失業連絡会(反失連)は現在、大阪府庁前(大阪城公園)で2001年の野営闘争に突入し(6月4日)、「野宿生活者支援法」制定・高齢者特別就労事業の拡大などを要求している。野宿者ネットワークは、今後も、釜ヶ崎反失連の構成一団体として、釜ヶ崎における大衆運動を共に闘う。併せて、野宿労働者運動に取り組む各地の運動体との連携も図っていきたい。

(2)野宿者ネットワークの諸活動

@正念場を迎える西成公園「仮設一時避難所」建設
 西成公園で、長居公園と同様の「仮設一時避難所」建設が報じられたのは、本年2月16日付「朝日新聞』朝刊(「野宿者ネットワークニュース」No12=01.3.22)。
 長居公園での「仮設一時避難所」建設は、紛れもなく2008年夏季オリンピック立候補ならびに2001年IOC視察と東アジア競技会開催、2002年ワールドカップ開催という状況の中で、極めて意図的に選定され、「公園適正化」を名目として実施された。
 大阪市は、「対策」の対象となる長居公園野宿労働者への「説明」を後送りし、地元説明会を優先させたが、9月末からの4度にわたる「労働者説明会」において、「仮設一時避難所への入所を拒否したからといって強制執行はしない」旨を明言した。だが、その実態は、執拗なまでの「説得」(こうした手法は「説得排除」という言葉で呼ばれている)と否応もなく入所に応じた労働者への「テント撤去同意書」の強要となる。(ちなみに、長居公園に限らず、「説得排除」は各所で行われており、テント撤去後にはその場所にフェンスが張りめぐらされ、新たなテントの流入を阻止するという姑息な手段が用いられている=天王寺動植物公園事務所による戎南公園など。西成公園でも工事が終了したエリアはいまだ封鎖状態にある。)
 3年を期限とした「仮設一時避難所」に入所した労働者は、暫時「自立支援センター」に(入所期間は原則として3ヵ月)へと移り、就労自立への道を歩むとされる。
 しかし現状の「自立支援センター」の問題点は、<「就労自立支援プログラム」の形は整えたが、肝心の就労自立に結びついていない。行政が寄せ場労働者の実情を踏まえた就労開拓をせず、安易に職安の一般求人枠でお茶を濁している。常用雇用促進など世間一般の就労基準を寄せ場労働者への対策に安易に適用。寄せ場で働いてきた労働者の実情、年齢などを考慮して、これに即した仕事を提供する観点がない。したがって、就労自立を図る自的でつくられた自立支援センターだが、現状では基本的なところで機能していないことがはっきりした。>(「野宿者ネットワーク通信<公園版>』第58号=01.2.3.)
 西成公園で今年度事業として予定される「仮設一時避難所」は、長居公園型の施設であり、野宿労働者を「自立支援センター」へと送る暫定施設と予想される。
 野宿者ネットワークは、こうした動向を予測し、2回の「西成公園労働者学習会」を開催、1回目の1月27日学習会では、「自立支援センター」の現状での問題点を労働者と共に前記のように共有するとともに、以下確認した。
 「大阪市は労働者の就労自立の全過程に責任をもって対応する部署・窓口・人員を明かにせよ! 」「わしらが困ったときにどこが責任をもって相談にのってくれるんや」「行政は民間に丸投げするな!」。
 「仮設一時避難所」・「自立支援センター」から「就労自立」への過程で、仕事を見つけることができなかった場合、再び野宿へと戻らざるを得ない現状であること、「自立支援センター」退所時に生活保護(居宅保護)が適用されたとしても、その後「就労努力」が足りないと認定されれば、やはり野宿に戻らざるを得ない現状があること。しかし、「テント撤去同意書」などを強要される現状では、再び公園に戻ることができず、居場所を奪われていく。
 西成公園での「仮設一時避難所」建設をめぐって、一人の労働者も不利にしてはならないという決意のもとに、西成公園野宿労働者の声をくみ上げ、それをもとにした「要求」作り、団結づくりの支援が急がれる。野宿者ネットワークの正念場だ。

A土曜「夜回り」と襲撃問題
 2000年7月22日・天王寺で野宿する小林俊春さん(当時67歳)が若者4人に襲撃され殺害された。8月2日での現場追悼集会の際には、2000年3月〜7月までの5ヵ月間に、日本橋でんでんタウン(堺筋)西側から千日前・道具屋筋にかけて、のべ44件の襲撃事件が発生していたことを明らかにした(3日に1件の割合)。(『野宿者ネットワークニュース』No11=00.11.9.)
 野宿者ネットワークが、土曜「夜回り」の対象としている釜ヶ崎周辺地域は、日本橋東西・心斎橋南北・阿倍野・天王寺の各地区。野宿を余儀なくされている仲間と向き合っていくための欠くことのできない活動である。この積み重ねが、小林さんの事件に際して、襲撃事件の実相を伝える「資料」の公表にもつながったものだが、1995年10月に戎橋から道頓堀へ落とされて虐殺された藤本彰男さんの事件を風化させないために結成された野宿者ネットワークにとって、小林さんの事件は、やはり断腸の想いと言わざるを得ない。
 小林さんの事件後、ネットワークの「夜回り」区域では、襲撃事件は、減少傾向にはある(特に頻発していた日本橋でんでんタウン周辺では、夜間のアーケード改修工事の実施に伴いガードマンが配備されていたことにもよる)。しかし、市内各所で公園でのテントへの放火事件がマスコミを通じて報道されている現状にあることを考えれば、事態はますます深刻化していると言わざるを得ない。
 野宿労働者への襲撃事件をなくすためには、やはり野宿労働者運動への社会的な反響、広範な取り組みが必要である。マスコミヘの情報提供(それ自身は一過性に過ぎない)や「抑止効果」を意図したビラまきの領域にとどまらず、これまで襲撃された経験をもつ野宿労働者と直に接し、生の声を聞いてきた野宿者ネットワークの務めとして、この課題を深化させていかなければならない。
 土曜「夜回り」は、野宿者ネットワークの運動の基底をもなすものではあるが、従来より、現状の「夜回り」の在り方で良いのかという問題意識がっきまとう。排除・襲撃という事態に対応すること、釜ヶ崎をはじめとした運動情報や生活情報を提供することなどに限定されず、「夜回り」の在り方を再検討していく。

B生活保護への取り組み
 公園や路上で出会った仲間の生活保護への取り組みは、野宿者ネットワーク活動の一つの柱でもある。しかし、公園・路上から直接アパートでの居宅保護への道を切り開くためのたたかいという目標を掲げながらも、野宿者ネットワーク全体として、この領域への踏み込みは、弱い。
 西成公園・関谷町公園などで始まった野宿者ネットワークの生活保護への取り組みも、野宿生活を経験してきた仲間が生活保護を受給した後の生活づくりを助け合う「さつきつつじ会」そして「つきみそうの会」の活動に委ねてきた現状にある。今後、「さつきつつじ会」そしてその後にできた「つきみそうの会」との連携を強めることを通じて、この課題に向かっていくことを、方向性として確認したい。

C『野宿者ネットワーク・ニュース』ならびに「野宿者ネットワーク通信』発行体制の充実
 『野宿者ネットワーク・ニュース』の発行は相変わらず滞っているが、現状では、精一杯の実情にもある。賛助会員の仲間に対しては、本当に申し訳ないと思う。
 『野宿者ネットワーク・ニュース』の定期的な発行を支える組織体制を確立することが必要だが、現状の力量からは自ら多大な目標を掲げることはできない。せめて季刊は目指していきたいと考えている。
 まず『野宿者ネットワーク・ニュース』発行を支える会員の拡大(必然的に財政の拡大)を目指しつつ、改善したい。また『野宿者ネットワーク・ニュース』発行を通じで全国の野宿労働者運動との交流も図りたい。
 『野宿者ネットワーク通信』公園版ならびに路上版も、発行体制の工夫が問われている。

            基本的活動方針

(1)野宿労働者の基本的人権とりわけ生活権・居住権の確立のために、野宿労働者の運動を支援し、共にたたかう。
 この際、野宿を余儀なくされる現状こそが、人権にかかわる問題であることを一層明らかにしていくとともに、野宿労働者の生活権・居住権という考え方そのものを野宿の現場から深化を図っていく。
 @公園や路上で野宿を余儀なくされた労働者に対する行政・地域からの追い出し・排除等の人権侵害行為を許さず、「野宿しなくとも良い」施策の確立を、野宿労働者自身の希望に応じたものとして、行政交渉・要求運動等の中に位置づけ活動していく。  
 A野宿労働者の「自立支援」は、野宿労働者の希望に応じた多様な選択肢こそが求められている現実を踏まえ、「交流会」「学習会」などを通じて仲間の意見をくみ取り、これを反映させて、行政交渉・要求運動に臨んでいく。
 B上記を踏まえ、今年度に「仮設一時避難所」建設が予定される西成公園での取り組みに全力を注ぐ。また関谷町公園(隣接する日本橋中学の改修工事をめぐって新たな動きも予測される)など公園における仲間との関係性をより深め、野宿労働者自身の団結づくりを支援する。「野宿者ネットワーク通信(公園版)』の発行と活用(話し込み)に工夫を加える。
(2)生活保護への取り組みとして、「公園から直接、居宅保護」への道をめざすとともに、野宿経験をもつ生活保護受給者の地域でのコミュニティづくりを支援し、諸運動との連携・支援を充実させていく。
(3).野宿労働者への差別・偏見に基づいた襲撃を許さず、野宿労働者自身の団結・自衛で襲撃を阻止していくことを基本におきながらも、より一層の社会問題化をはかる。この際、野宿労働者がおかれている現状や野宿労働者自身の襲撃体験を踏まえた声を中心にしながら「野宿労働者間題」を深化させていく。また、マスコミヘの訴え、裁判闘争への支援などこれまでの取り組みを踏襲しながらも、社会間題化のため、より市民社会への直接的な訴えを前進させる。「野宿者ネットワーク通信(路上版)』再発行体制の確立を図る。
(4)野宿労働者支援のために運動する釜ヶ崎あるいは諸地域の運動体との交流・連携に努める。また、野宿労働者問題に関心を寄せる個人とも交流・連携を図る。このために「野宿者ネットワーク・ニュース』を充実化させるとともに、配布網の拡大に努める。
(5)財政基盤の確立に努める。
(6)定例活動
・毎土曜の夜回りの継続 ・毎月第2・第4木曜の定例会議
・『野宿者ネットワーク・ニュース』の定期発行
・「野宿者ネットワーク通信』公園版ならびに路上版の発行